「嫌なら辞めろ」という言葉は、労働者の立場の弱さを鑑みると、非常に暴力的で急迫めいた言葉に見えます。パワハラと言う人もいます。実際、これが使われるときというのは、本気で辞めてほしいと思っているわけではなく、文句言わずに働け!文句を言うなら辞めろ!(辞めてもすぐに仕事なんか見つからないから、どうせ辞められないだろ?)という認識を持っている気がします。この言葉がどれだけの頻度で飛び出しているのか?は分かりませんが、これを何気なく言ってしまったがために、とんでもない事態になってしまったということが、ニュースになっていましたね。「「嫌なら辞めろ!」と新人に言い続けたらホントに辞めちゃった 先輩「なんでまともに受け取っちゃうかな」 | キャリコネニュース」では、その全貌が描かれています。「嫌なら辞めろ!」と、冗談半分に言ったら、辞められてしまい困っているという叫びです。
そうなった経緯については分からないものの、見通しが甘かったというしかないでしょうね。実際、これを言った社員は2ちゃんねるにスレッドを立てて、「辞めるほうが悪い」、「そのまま受け取るな」、「ストレス耐性が弱すぎる」といった自己弁護の言葉を並べていますが、これは擁護できません。まさか、これ言っても辞めないだろうと軽い気持ちで言った言葉が予想以上に相手に突き刺さってしまった。ということです。言葉っていうのは、こっちの意図と違って受け取られることがあります。特に相手を傷つけるパターンがあり、何気ない一言で、大したことを言ったつもりはなくても、相手が予想以上にそれにショックを受けているというケースだってある。だから、こっちはその気がなくても相手が「止めた方が良いんだ」、または「辞めても構わないんだ」と解釈してしまえば、そりゃ辞めますよ。辞める、辞めないは労働者直匙加減でいいんですから、ちゃんとルールに則って退職すれば、そこに文句が生まれる余地はないはず。
これが言った言葉のストレートな意味とは別な解釈をして辞めたならば、辞めた方にも突っ込みたくなるのは分からないでもない。例えば、「辞めないでくれ!」って言ったのに、ダチョウ倶楽部の熱湯風呂のアレみたいに解釈して辞めてしまったら、それは辞められた方もちょっと可哀想に思わないでもないが、今回は言った言葉のストレートの意味に解釈しているわけでしょう?だから、少なくとも辞めた方に非はない。言葉の解釈として適切な解釈をしている。その結果、生じたことが困るというのであれば、言ったほうが悪いです。中には「これくらいで辞める社員は、どうせ雇っているだけムダだからさっさと辞めてもらったほうが良い」と意見している人もいますが、現実はそう上手くはいかないと思います。
この気軽な一言を言ってしまった社員は、これから上司らにどう言い訳して報告しようか?悩んでいるらしい。つまり、この社員はそうは思っていないかもしれないが、少なくとも会社は「社員が1人減ることは損失で、その原因を作った自分にどういう処分や叱責が待っているか?分からない」から、言い訳を考えるのに苦慮している。と予測できます。辞めてもらったほうが得ならば、この社員も別に悩む必要ないじゃないですか?辞めてもらって正解な社員を辞めさせたわけですから、むしろ会社からどう褒められるんだろう?と希望に満ち溢れているのではないか?と思います。そうなっていないということは、社員も感づいているんですよ。せっかく採った社員1人に辞められる損失の程度、そしてその代わりなんてそう簡単に見つからないことが。
だいたいね、そんなことで辞める社員はいらないとか言うけどさ、実際辞めても問題ない状況さえ整えば、みんな辞めますよ?今の会社の待遇や働き方に概ね満足して働いている人なんてほぼいないでしょうから。少なくとも、どこかに不満を持ちながら働いている人が大半だと思います。そういう人たちの多くは辞めないんじゃないくて、辞められないんです。だから、今回辞めた彼がどういうプランを持って辞めたのか?不明ですけど、実際辞めても問題ないプランがあるなら、みんな一斉に辞めるでしょう。つまり、そんなことで辞める社員はいらないとか言っている人に言いたいのは、そういう社員が要らないということは、今働いているほぼ全ての社員がいらないことうことに近いと思うのです。それで会社はやっていけるんですか?
実際、この辞めた社員の年齢とかは分からないわけだが、代わりはそう簡単に見つからないと思う。会社にとって、辞められて正解なんて社員はそうはいないと思う。新卒は年に1回しか採らないから、また次の年まで待たないといけないし、中途採用にしても、そう簡単にピンポイントで上手い人材が見つかるか?分からない。以前話題になった、内定辞退で人事担当者が怒り出すような場面を見ても、採用した人が辞めることの会社にとっての深刻さがよく分かると思います。そんな深刻さを理解しているのならば、そもそもこんな言葉を平気で言うべきじゃないと思います。言葉は本当に恐ろしいものですよ。今回の辞めた彼が、今後どういう人生を歩んでいくのか?分かりませんが、労働者の立場の弱さに付け込んだ発言に屈しなかった精神は本当に立派に思います。

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)
- 作者: 城繁幸
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/09/15
- メディア: 新書
- 購入: 17人 クリック: 447回
- この商品を含むブログ (614件) を見る